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パーマカルチャー異聞後記

 旅の後日談とまとめ。

翌年、今度はユカリさんからメールが届きました。アフリカンパーカッションのツアーを日本各地でやるので鴨川でもどうかというお誘いでした。ユカリさんのバイタリティーに驚きなからも2009年の夏それは実現しました。それは熱い熱い夏でした。(写真は古軸泉さん撮影)

 そんなユカリさんとのメールのやり取りの中で印象に残っている言葉があります。あなたは同志です、というような文言でした。「同志」とは大げさなという感じでしたが準備も忙しかったしユカリ一行は次の公演地にすぐに旅立って行ったので真意を確かめずに終わってしまいました。なにより彼女はツアーの途上で急逝してしまった・・・。

 

 今回、パーマカルチャー(以下P・C)の旅を振り返って何かまとめようと考えていたらP・Cはレボリューションなのだということに思い至りました。P・Cが環境運動の中から生まれたことは旅行記にも書きましたが、私の想像では急進的な環境運動がとん挫してその反省から編み出されたものと想像していたのです。結果、環境思想というよりエコロジカルなライフスタイルとして普及したと。ところがビルモリソンたちにとって環境運動はとん挫などしていなかった。その先鋭的な表現のひとつがP・Cだったのです。パーマカルチャーとは緑の革命だった。

 なぜ今頃気付いたかというと「緑の党」についてググっていたら、その端緒はオーストラリアのタスマニアにあると知りました。しかもそれは70年代のことだった。まさにP・Cの揺籃期と場所も時期も重なります。つまりパーマカルチャーが世界に広まる軌跡は環境思想が成熟して政治勢力にまで発展する緑の党の歩みとも連動していたのです。それは私が勝手に勘違いしていたのかというとそうでもない。ユカリさんの話によるとビルモリソンはスピリチュアルとは一定の距離を置いていたそうで、しかし今後はそれを容認していくつもりだと語っていました。私はスピリチュアル=神秘主義みたいなものを想像していて、それもありそうな話だなと思っていたのですが今から考えれば精神性というか政治思想といった意味も含まれていたのでしょう。それに関連するエピソードとしてある団体がビルモリソンを日本に招いてP・Cについて講演を依頼したところ日本人の環境意識の低さについて語り始め最後にはパーマカルチャーなど10年早いと言い捨てたといいます。自分で仕向けていた面もあるのにそれはないでしょというエピソードです。がP・Cが目指す社会を実現するためにファッションやホビーで満足するかドイツの緑の党のように政権与党にまで発展するのかモリソンたちにとっては切実でリアルな問題だった。その切実さはユカリさんも共有していたのでしょう。

 それはビレッジツアーの案内人バリーさんの嘆きにも通じるものです。世界屈指のエコビレッジも見方をかえると好事家の道楽・毛色の変わった別荘地と見えなくもない。実際維持していくためにはそのような人たちも受け入れざるをえない。

 

 このブログで自給自足はホビーでいいじゃないの言い放った私としては耳の痛い話なのですが、少しいいわけしておきます。日本人の特質として環境が政治にまで昇華されるにはまだ長い時間がかかると考えます。それは欧米に比べて意識が遅れているからというのでなく災害大国に住む日本人は独特の自然観を持っていて、それは文化芸術から庶民の世界観に至るまで貫徹していると。観念というより遺伝子に組み込まれた習性といってもよいでしょう。それを自らの言葉で明文化するのは一筋縄ではいかない。山内節や中沢新一の仕事がそのひとつかもしれませんが、それはまだ十分に明らかにされたわけではない。最近つくづく思うのです。東日本大震災や福島の原発事故があっても人々の意識が変わるどころか反動的な政権を支持する国民性というのは一筋縄ではいなかいと。しかし人新生といわれる時代に環境が大きなテーマであることは再認識する必要があるでしょう。一方、環境原理主義というのもまずい。私としてはジョンレノンが歌うrevolutionのように自然体なのが一番なのではないかと考えます。その意味でも自然や環境から深く学ぶことが前提になる。私にとってその手段のひとつがP・Cなのです。なによりそれはP・Cの「生態系に学び、伝統文化に学ぶ」というテーゼそのものです。故人となったビルモリソンやユカリさんにリスペクトをこめて思いを新たにしたいと思います。

 最後にユカリさん家の循環ガーデンの解説から一文を抜粋して私の思い出深い旅行記のしめとします。「ここではガーデンに必要なもの、水、土、種、苗、マルチ、陽光、風など全てがガーデン内で賄われています。1つの命が循環することにより、いろんな姿に次々と変身してゆきます。私達もその一部、一筋の光、一粒の種、一握りの土・・・私達は、全ての化身でもあるのです。それらが輝き息吹いているから私達の命も輝きます。」デジャーデン・ユカリ