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パーマカルチャー異聞その五・六

 2008年春の豪州パーマカルチャー旅行記を旧ブログから再録しています。

 

 羽天軽地亜村異聞五

 P・Cビレッジツアー

 朝、ユカリさんの車に同乗して出発。目指すはクリスタルウォーターズのパーマカルチャー(P・C)ビレッジ、車で30分ほどの行程です。道路の左右には広大な牧場が広がり、牛たちが草を食んでいます。これが何時もお世話になっているスキ家の牛丼になるんですねえ・・・合掌。

 まもなくマレニーの街を通過。開拓時代の佇まいが残った美しい街並みです。ここはコープの街として有名で、もとはエコグッズを共同購入していたそうですが、それがだんだん広まって生活全般のいろいろなことにコープが設立されていったそうです。

 街を過ぎると、またまた広大な牧草地帯が広がります。やがて、こんもりとした森が見えてきます。これが目指すクリスタルウォーターズです。

 さてここから今回の旅のハイライトとともいえるビレッジ・ツアーとなるのですが、ちょっと申し添えておきますと、このP・Cビレッジにブラッと訪れても見学できるのはビレッジセンターやインフォメーションのある入口の公共スペースだけです。そこから奥はプライベート・ゾーンなので勝手に入ってうろつくのはちとまずい。また外見は軽井沢の別荘地とあまり変わりありません。そこでビジターが見学する場合はビレッジ公認のガイドさんにビレッジ・ツアーを申し込む必要があるのです。

 で本日のツアーをお願いしたバリーさんがインフォメーションセンターにやってきました。バリーさんは初期からこのP・Cビレッジの建設、そして運営や管理に関わってきた中心メンバーのお一人です。さっそくインフォメーションセンターの展示パネルを見ながらビレッジの概要を説明してもらいます。

 ここクリスタルウォーターズでP・Cビレッジの建設が始まったのは1985年。当初広大な259haの敷地は周囲と同じような牧草地だったそうです。そこに樹を植え幾つものダムをつくり“新しき村”が建設されました。現在では83世帯、約250人が居住しています。地形はこんもりとした丘陵(低い山の尾根部)で、そこに0.5haから1haほどの居住スペースが配置されています。また牧場や森林など広大な共有スペースは住民により管理されています。建設から既に20年以上経過し居住者の大半は入れ替わっているそうです。住居スペースに余裕はないようですが、もし空家が売りに出された場合、パーマカルチャーや自治に関する基本的な合意事項を了承すれば、わりと自由に移住できるようです。ほとんどのお宅に家庭菜園があるそうですが、パーマカルチャーを実践しているお宅は半数ぐらいとのこと。しかし、ビレッジ内の水は雨水や小さなダムで完全自給、排水も各家庭で浄化し、電力はソーラーなどで自家発電している家もありますが、電力会社からも送電されていて、これも一般より容量を低くして(1/4程度)いるそうです。

 余談ですが、現在オーストラリアには大小様々なエコ・ビレッジやパーマカルチャー・ビレッジがりますが、クリスタルウォーターズはそのなかで最も成功している事例とされています。しかしバリーさんは説明の最後にビレッジの運営面の難しさをちらっとこぼしていましたが・・・。

 レクチャーの後、バリーさんの車でビレッジを回りながら補足説明。本当に思い思いの個性的な住宅が森の中に点在しています。基本的に谷の部分はダムになっていて、尾根の斜面に住居が建てられています。湖面に映るその景色は見とれてしまうほど美しい。

 次にバリーさんが管理しているバンブー・プランテーションを見学。様々な竹が区画に分けて栽培・管理されています。竹の子は中華料理店に出荷したり、竹材も結構需要があるようです。

 そして創立メンバーのお一人、バリー・グッドマン氏のお宅を見学に行きました。(ガイドのバリーさんとは同名ですが別人です)リビングに入ると何処かで見たような・・・、この雪見窓のような丸窓は?!。そうP・Cの本の巻頭に載っていたものです。何かそれだけで感動して写真をパチリ。

 このお宅は電気技師だったバリーさんが二年がかりで作り上げた手作りの家で、ソーラー発電、雨水タンク、コンポスト・トイレなどなど様々な工夫がこらされエコ住宅の見本のようなお宅です。台所はクッキング・オーブンを中心にとても使いやすそう。エコ・ハウスといっても不便な感じはとこにもなく、換気(自然対流により涼しい空気を取り入れる)なども配慮されていて快適そのものです。ちなみに例の丸窓は電話ボックのガラスをリサイクルしたもの。バリーさんは仕事で京都に滞在したこともあるそうで雪見窓風なのも納得です。ご高齢のバリーさん、悠々自適の暮らしぶりはエコライフの求道者か仙人といった感じ、エコ住宅にも負けない魅力的なお爺ちゃんでした。

 こうして二時間あまりのビレッジ・ツアーはあっという間に終了。ユカリさんには通訳だけでなく補足説明もしていただき、おかげで非常に充実したツアーでした。

 

 補記

 クリスタルウォーターズのP・Cビレッジでは、“観光と教育”も村の基幹産業のひとつに位置づけられています。そこでビレッジ内では様々なP・Cセミナーが実施され、受講者を受け入れる設備も充実しています。またウーファーとして農作業や家事などを手伝いながら長期滞在する若者も多いようです。

羽天軽地亜村異聞六

 P・Cビレッジ滞在記

 ツアーも無事終了し、この後ビレッジ内のゲスト・ハウス“Waterbreath Retreat”に二泊したのですが、とくに何をという目的はなく付近のブッシュをトレッキングしたり、スケッチしながらビレッジの中を散策しての~んびり過ごしました。まあそれはそれで小さな発見の連続で収穫もありました。またゲスト・ハウスの若きオーナーであるスコットさんには菜園の説明やクリスタルウォーターズの古い伝説など面白いお話を沢山うかがいました。思いつくまま印象に残ったエピソードを紹介しましょう。

 その一、人見知りしない動物や鳥たち。このビレッジにかぎったことなのかどうか定かではありませんが、ともかくワラビーやカンガルーなど、野生動物がすぐ近くにまでやってきます。別に餌付けしているわけではありません。餌を与えたり触ったりしないよう注意されるぐらいです。またビレッジのあちこちで美声を聞かせてくれる鳥たちも手がとどきそうなところまで近寄ってきます。望遠のないデジカメでもこの通り。

 その二、全国的に村の出役は大変。私の村では道の整備や草刈りなどの共同作業というか自治会活動を「出役」といったりします。このP・Cビレッジでもいろいろな共同作業がありそうです。例えば、ダムへ雨水を導くスウエイルがあちこちにあって、きちんと手入れされています。まあちょっと土を掻いただけの簡単な溝ですが、意外にこの管理は大変なのではないかと思います。また道の草刈りは勿論、何より山火事の延焼を防ぐために芝生(防火帯)の草刈りもありますし、ブッシュの枯れ草、枯れ枝などを撤去する作業は重労働でしょう。このビレッジは森林都市と形容するのがピッタリの、のどかなとこなんですが維持管理は想像以上に大変なのではないでしょうか。

 その三、出来ることからコツコツと。ゲスト・ハウスのスコットさんと奥さんも最近このビレッジに移住してきたようです。建物は既にあったものですが、菜園の整備は現在進行中。またお隣も現在、母屋の建設工事が佳境に入っているところで日が暮れても電動工具の音がしていました。(実際はあつかましくお邪魔して写真を撮りまくったのですが)この隣のオジサンさんはP・C及びこのビレッジについてスコットさんの先生でもあるようです。スコットさん曰く、まず小さな小屋を建てて(将来はゲストハウスになる)、菜園の整備にとりかかる。そしてじっくり環境を観察してから母屋の建設にとりかかるのさ。これが此処のやり方だよ。

 その四、警官300人とレンタカー。これもスコットさんから聞いたのですが、マレニーには最近、大手のスーパーマーケットが出来ました。この建設に反対して住民運動が盛り上がったそうで(なんといってもコープの街ですから)、そのデモに警官隊が300人も動員それたそうです。欧米の大手スーパーは穀物相場も左右するほどの巨大企業だそうで、さもありなんというお話です。

 私はこのエピソードとどこかで繋がっているような気がするのですが、実は最近、ビレッジ唯一の雑貨店が閉店してしまいました。巨大スーパーは安くて品揃えも豊富なわけで、ついそこで買物したくなるのが人情というもの。これは私の住む鴨川でも事情は同じです。そして前にビレッジに行くならレンタカーをお勧めすると書きましたが、その理由も、食料品を扱っていた雑貨店が閉店したため、どうしてもマレニーまで買物に出る必要があるからです。でも例のスーパーで買うのはやめましょうね。

 その五、とりあえずのまとめ。「なかなか思うようにはいかないもんだよ」ガイドのバリーさんも言っていましたが、ビレッジの運営・管理についてはいろいろな問題もあるようです。しかし、ビレッジのポテンシャルは非常に高い。何かビレッジの核になるモノ(基幹産業とか)を興せば、さらにP・Cビレッジの理想に近づけるかもしれません。

 例えば現在、数人の若い移住者によって搾乳組合のような活動が行われています。私もスコットさんに同行して共同牧場にフレッシュ・ミルクを取りに行きました。そこには沢山の住人が牛乳瓶を持って集まってきて、朝の挨拶と、さりげない情報交換を交わすのです。こういう活動がP・Cビレッジの基幹産業に発展するのが理想ではないかと思います。Problem is solution.というビル・モリスンの言葉は、パーマカルチャーとは本来的に創造的な行為だということ、問題に遭遇することによってパーマカルチャー本来の力が発揮され開花するのだと解釈したい。

 さてさて、鴨川に移住して約8年、自給自足の真似事をし、また今回の旅を通じて思うのですが、自然回帰や自給自足の本質は人間性の回復にあると思うのです。なにより衣食住に関わる総合的な労働は創造的な喜びに満ちている。これが本来のウェルネスではないでしょうか。生活の創造性を回復すること、これこそ私にとってパーマカルチャーの本質であると確信しました。

 最後に今回の旅でお世話になった方々はことごとく若い時に世界中を旅(放浪)して回った経験者です。私のようなオジサン・バックパッカーを温かく迎えてくれたのも、皆さんの旅の経験が大きいと思います。このようなコスモポリタンな気分はビレッジにも横溢していて、これはパーマカルチャーの大きな特徴の一つではないかと改めて感じた次第です。皆さんありがとうございました!

とりあえずおわり。