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ゴッホの椅子

 ある男が呪術師に弟子入りしようとしたのだそうです。呪術師は「それでは自分が居るべき場所を見つけたら弟子にしてやろう」と問題を出しました。男はそこいらを探し回りましたが見つからず疲れ果てて座り込んでしまいました。そしたらそこがしっくりと感じる居場所だった?!。「見つけたな」呪術師はいって弟子入りをゆるしたそうです。

 さて、そんな自分の居場所にピッタリの椅子があったらいいと思いませんか。私のおすすめは「ゴッホの椅子」です。右の絵はゴッホが南フランスのアルルに滞在したときに描いたもので、左のそっくりな椅子はスペインの民芸家具です。(※1)これがもうすこし洗練されるとイギリスのウィンザーチェアとかアメリカのシェーカー家具になるのです。それらに共通しているのは民芸品・工芸品にルーツがあることですね。機能本位でシンプルなところが現代家具に通じるデザイン性を備えています。でそれらは村人が手作りしていた。専門の職人もいたでしょうが、ちょっとした道具と技術があればチャチャっと簡単に作って普通に使っていたのです。そうそう「アルプスの少女ハイジ」に出て来るアルムおんじみたいに。そんなふうに自分の椅子を自分で手作りできたら素敵だと思いませんか。その椅子を置いた場所が即ち自分の居場所になる。

 

 でいろいろ調べてみるとヨーロッパの伝統工芸家具に共通しているのが「グリーンウッドワーク」という技法というかジャンルで、それは加工しやすい生の木材を使って作ってしまうというもの。組み立ててから乾燥するので歪みや曲がり割れなどが出るのですが、まあ使えればいいじゃんという大らかさがまた味わいになっている。ゴッホの椅子を見直すとそんな素朴な大らかさがよく表現されていますよね。

そして上の写真は私が試作したスツールとゴッホ椅子もどき。本家のゴッホ椅子は微妙な角度で部材が組み立てられていて実は結構複雑な形をしているのです。やはり職人技で作られている。でまあ私はアマチュアですから単純化してそれらしく作ってみました。現在キッチンの椅子として使用していますが、軽くて取り回しが楽ちん。(実際小指で持ち上がる!)ペーパーコードの座面がおしりの形にフィットして座り心地も良好。居場所を探して動き回るのに最適かもしれませんね。ちなみに私は呪術師になるつもりはありません。

 

 

 

※1、久津輪 雅著「ゴッホの椅子」