· 

樹冠の曼荼羅

  新年最初のお題は樹々山の植生についてです。ここは常緑樹または照葉樹の北限域にありますので冬でも緑の葉が茂る常春の森林です。

 写真はスダジイとウラジロガシの梢を見上げたもの。葉っぱが不思議な文様を描いています。まるで曼荼羅のよう。このような現象は「クラウン シャイネス・樹冠の遠慮」などと呼ばれます。なんでも熱帯地域で見られる現象だそうですが、南房総の常緑樹でもちょっと探せば見つかります。原因については諸説あるようです。例えば、病害虫が広がるのを防ぐために隙間を空けているとか。葉っぱにおけるソーシャルデスタンスですね。夜空に星座があるように、樹冠の文様が読み取れるなら森のスピリットに触れることが出来るかもしれませんね。

 

 さて、私は里山で自給自足を目指しています。なので里山の植生というのがとても重要になると考えています。というのも、衣食住を一人で自給するとなるとかなり忙しい。そこで適地適作に徹して省力化します。そのためには地形や気候などの環境を理解することが大切で、それらが植生に集約されているのです。また昆虫や動物はその植生に大きく依存している。勿論人間も。ただしそれを自覚できるのは農的暮らしを実践している人でしょう。私的には人間もそのような地域の生態系の一員として暮らしていくのが理想です。

 南房総の森はほぼ全域シイカシ萌芽林に覆われています。シイやカシなどの常緑樹は公園などにも植栽されており、どちらもドングリが出来るので子供に人気がありますね。「あっあのドングリの木か!」という方も多いと思います。常緑樹は別名、照葉樹とも呼ばれます。光沢のある葉を持つ木が多いのがその由来です。なんでも南房総はヒマラヤ南麓から中国大陸、朝鮮半島を経て西日本に連なる照葉樹林帯の東端に位置しているのです。この広大な照葉樹林帯に住む人々はお茶や焼畑など共通した文化を持っているそうで、面白いのはモチモチした食感を好むのも共通しているとか。そのような照葉樹林帯のフィールドワークから農学者の中尾佐助氏らは「照葉樹林文化」を提唱しました。私は東アジア文化の古層に迫る優れた論考だと思います。稲作が普及する以前は山の幸を利用する知恵や技術が重要だったようで、そこから里山と自給自足の暮らしを捉えるのも面白い視点だと思っています。